森林(もり)をつくる家、職人(ひと)とつくる家


会の理念

 

 東京で林業が行われていることを知る人はあまり多くないかもしれないが、東京の森林は面積の三分の一を占める。その西多摩地区は昔から林業の盛んな地であった。

 

 木を多く使うのは建築で、もともと日本の住まいは、地元の職人が地元の木材を使って伝統的な工法で家造りをしていた。地元の木を使用することで、山林が更新され、それによって川下の都市環境も守られていた。

 

 しかし、安い外材と新しい工法におされてこのサイクルは壊れ、日本の林業は衰退の一途をたどり、山林は荒れはてている。西多摩地区も例外ではなく山林は瀕死の状態にある。「東京の木で家を造る会」は、この西多摩地区の木、つまり東京育ちの木材で家造りをすることで、林業に元気を取り戻し、山林を育て、ひいては都市環境の保全に役立つことを目的としている。

 

 しかも、単に木材の需要が増えればよいという発想ではなく、林業家、製材所、建築家、工務店、そして建主が、おたがいに顔の見える関係で家造りに取り組み、住みよい住まいを実現していくことを目指している。

 

 東京に降った大雪で、山が大雪害を受けたのはかれこれ20年前だ。その惨状を目にした週末山作業ボランティアグループが山の手入れに入り出した。いくつかのグループが山作業を手伝ううちに林業家とふれあい、山の持つ魅力に触れ、はまっていった。様々な職業を持つ人々の中に建築に携わる者たちが、東京の木材を使った家造りをすることによって、山を甦らせようと有志を募り1996年4月に立ち上げた。2001年9月には協同組合となった。


理念を目指す仲間

 

 会の構成は山と街を結ぶ、川上の人(林家・製材所)、川下の人(工務店・設計事務所・建主)たちだ。事務局は家を建てたい人が最初に問合せをする窓口である。ここにはいろいろな方から問合せが来る。国産材なら安かろう、自然素材にこだわりたい、アトピーの子供がいる等々。予算・理由・希望工期も様々だ。窓口のところで、お客さんに要望整理をしてもらう、自分の(家族の)住まいに何を求めるのか?と。一旦冷静に、自分を見ることで考えがまとまってくることもある。設計に入る前にこれをしておくことで後の流れが非常にスムースになる。設計図面にとりかかると細部が気になって、全体像を見失うからだ。

 

 顔の見える関係での山づくり、家づくりを目指しているが、立場が違うと環境も違う。おたがいの環境を認識するところから始める。建築関係者や建主は材料としての木材は知っているが、それがどこで生育しどうやって製品になるかを知る者は少ない。そこで山に入ってもらう。柱としてのスギやヒノキが、どういう状態で育っているのかを見る。木肌や枝振り葉っぱがどういうものかを間近で見る。そして、手入れをされ、伐採・製材されるのを見る。下刈や植林等、実際に体験もする。何十年ものあいだ人に育てられてやっと材になるということを体験として認識する。これはとても貴重なことである。木を生き物としてとらえるというように、見方が変わるからである。

 

 林家や製材業者側は、設計や建主に直接会う。現場で家となる木を見る。その向こうには建主さんの顔が見える。自分の育てた・伐採製材した木が使われ喜ばれているのを感じる。これも今までにない大きな変化だ。製材業者は、どこにどう使われるのかを設計者と打合わせするため、いやおうなくお客さんの顔を思い出しながら、木を出す。

 

 「喜ぶ顔が見たい」これが次への意欲となる。


家づくり体制

 

 発足から12年、約100棟の家が建った。着工から完成まで平均すると6ヶ月を有する。その手前に木材を揃えるためにできるだけ時間を取ってもらうよう組み立てている。

 

 建主さんにも、理解してもらうために山を見てもらったり製材工場見学も行う。大量の規格品生産ではないため、つねに製品ストックというものはないが、手前に打合わせをして木材の手配をするようにしている。そして建主さんには完成後の翌年春、山への恩返しとして記念植樹をしてもらう。親子で鍬をふるい汗を流し植林をする。


これまで

 

 12年の間、理念をかたちにするためにいろいろなことにチャレンジしてきた。その一つにLCAライフサイクルアセスメントがある。

 

 5年前に、産・官・学、協同組合東京の木で家を造る会・財団法人東京都農林水産振興財団・東京農工大学の共同研究として、木造住宅のLCAに取り組んできた。家づくりの負荷量(生産から廃棄まで)を計算するものだが、今後これが活用されることは間違いない。家を造る側も、家を持つ側も指標として、LCAを考えなければならない時代がくるであろう。

 

 そして集大成として「環たまき」を考えた。

 

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 東京の森林を甦らせるプロジェクトのひとつ、循環型社会を実現するための新しい概念ブランドです。

 

  【環】かん

  (1)玉の輪。たまき

  (2)輪の形をなすもの。

  (3)まわりめぐること。とりまくこと。 (広辞苑)

 

 循環の「環」、環境の「環」、さらに「たまき」に「多摩の木」の意をもたせます。

 カラーは常緑樹、永遠の美しい緑「常盤色」。

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 東京の森林で産出される木材等を素材とするいろいろな製品に冠する。これらを積極的に利用することで、生命を育む森林とそれに繋がるくらしを守り、地球の温暖化防止に貢献していく。木を生き物として扱い、メリット・デメリットを認識し、職人の手によって生かしていく。


基本的問題

 

 建築業界の体質を変えずに進むか、体質を変えていくか、基本的問題には直ぐにぶつかった。現在の建築業界は木材を部材としてしか見ることが出来ない状態であった。10年前、木材は、あくまで狂わず均一で注文即納・廉価な品物と位置づけられていた。これらが満たされているもののみが部材としてその対象商品となりうる。会としての戦いは顧客の獲得が第一であるものの、実はそれ以上の戦いがこの点にあった。そしてこれは今も変わらず存在する。

 

 ここで道は大きく分かれることとなる。建築業界の木材に対する認識を変えずに、いや、変えるどころかまるまる受け入れ、とにかく売り込んでいく道。苦しくても少しでもその点を変えながら進む道。

 

 私どもの様な活動は、現在全国で多く立ち上がっている。それぞれ、どちらの道を行くのだろうか。私どもの選択は後者。そのために何が必要か、何をしていくべきか、苦しい道のりとなった事は事実である。

 

 社会一般でみると前者の道を歩んでいる様だ。人工乾燥、プレカット、安く大量に‥結果、木材は売れただろう。が、森林はどうなったか?地域経済は?その地域の工務店は?大工さんは? やはり基本線に乗っていくべきと判断した。

 

 木材は変わらないし、それを生かす以外には真に受け入れられない。その木材を持続的に供給する事は出来ないからだ。ここから苦しい戦いが続く事となった。

 

 要は木材の良さをどう認識していただくか、大工さんにどう料理していただくか、製材屋さんにどう見立てていただくか。そして林家はそれをどう持続的に生産していただけるか。このシステムを完成させる必要がある。その過程を消費者にお買い上げいただけるか。努力をお買い上げいただくというまこと身勝手な活動だ。幸いそこには数は多くないけれど今、お客様はついている。これを糧に、新しい木材に対する認識を生み出し、職人の手により、それを生かした家づくりを行う。これが私どもの進むべき道である。


これから どこまでがガマンなのかその線引こそ価値観

 

 私たちが求めているのは安全で安心な家づくり‥それも豪邸でない、一言で言えば市井の中にある家なのだ。30年〜35年もローンを払い続ける事を引き受けて造る家なのだ。

 

 その中で一体、本当は何が大事なのか。強度、精度、性能や住まいやすさ、使いやすさ、それに価格。何を基準に何を目安に考えればよいのだろうか。価格に見合った品物、安全で安心な暮らしができるための器‥が住まいなのだ。

 

 それは長い間培われてきた技術だけでなく、造り続けてきた人々の心の中、気持ちの中にこそ存在するのではないでだろうか。ある物を使い、手にある技で形にする。これを基本にしなければならない。市井の中にある家、それは職人の技によってなされてきた。これが私たちのいう職人(ひと)とつくる家なのだ。これを実現させるためには家づくりの仕組みだけでなく、携わる人々みんなが共通の意識を持たなければいけないし、その上で失われてきている互いの信頼感を再構築しなければならない。それを実現するためにも「環」という概念が必要となる。

 

 今、家づくりには時間をかける事、いわゆるスローな家づくりが必要ではないだろうか。

 

 木材、建築の中にある壁とは、実際の壁ではなくそれに携わる人々の心の中にあると思う。様は考え方が変えられるかどうかなのだ。その価値観こそが問題なのだ。安全、安心を第一義として家づくりを考え直すと、それは、一口で言えばどこまで我慢するか、という事になる。自分たちの求めるものを手に入れるためには、同時にどこまで我慢、どこが限界、その価値感を見直すという事ではないだろうか。

稲木清貴 いなぎきよたか
協同組合東京の木で家を造る会 事務局長